(感想文にはネタバレがあるのでご注意ください)
図書館での貸し出し予約の順番がついに私に回ってきました。
カズオイシグロの本を読むのは初めてでしたが、以前、彼が原作のTBSドラマ「わたしを離さないで」を観たことがあり…
そちらは「大人になったら自分の臓器を提供しなくてはならない(死を迎えなければならない)」境遇の子供たちの通う学校が舞台となっており、それが素晴らしいことだと、あなたたちは天使なのだと教育されているけれどやがて歪みを知り、抗うのだけどどうすることもできず…
受け入れようとしながら大人になり(受け入れられなかった者もいて、街頭演説で叫びながら自ら亡くなってしまう)、その時を迎えるまでの子どもたちの成長、そして教育する先生たちの苦悩の物語でした。
世界観をしっかりと作り上げた素晴らしいドラマで、キャストの演技も素晴らしくて、おかげで気持ちはしっかりと落ち込み、出口のない鉛のような重たさを味わいました…。
メンタルが弱っている時に見るのはおすすめしないドラマです。
ただここでカズオイシグロが伝えたかったのは「命は長さではない」ということだったそうで、いかに命を尊び生きているかという意味では、子どもたちは純度が高いというか、清らかでまっすぐでもあり、私はこのドラマで残酷さと清らかさが共存する世界というのに触れました。(ただ、見ていて非常に辛いですが)
「クララとお日さま」にも似たようなものを期待しました。実際に、多からず少なからずそういった世界観でした。
こちらは人工知能のロボットの女の子(クララ)が、とある家庭に買われていき、そこの少女が成長するまでの大切なパートナーとして生きていく物語でした。
このロボットには、私は今でいうiPhoneのような、もしくはアレクサ的なものを感じました。この世界では、少年や少女はショーウインドウでロボットを選び、親に買ってもらうのがデフォルトです。一緒にお出かけもするし、大事な親友となります。ショーウインドウに並ぶロボットのバージョンはどんどん新しくなります。
クララは優秀なロボットで、人の感情を読み取り、寄り添い、何をしたら良いのかを判断します。
少女にもその家庭にも、とても重宝がられて大事にされ、クララはそれを幸せと感じています。少女は体が強い方ではなく、やがて命の危険にもさらされますが、クララの献身的な努力もあり、助かります。
やがて少女が成長して自立し、家を離れることになると、クララの役割は終わります。クララはとてもうまくいった、少女を送り出すことができて私は幸せ者だと感じながら、その家の納屋のような場所でこれまでのその家庭での記憶を脳の中で整理します。少しだけ、整理するのが前より遅くなったかななんて感じながら。
誰もいない、誰も来ない場所で、整理し続けます。
そんなふうな物語でした。
私はここで、クララが「幸せだと感じているシステム」に、素晴らしさと残酷さを感じました。
クララが心から幸せと思えているのだから余計なお世話ですし、人間とロボットで寿命が違うと言ったらそうなんだろうな、全員幸せ、ハッピーエンド、何も問題がないじゃないかと言ったらその通りです。
だけどそう言ったシステムを作り、クララに与えているのは人間です。
読むと、クララの素敵さと、そして背負っていう悲しい運命というものに少なからず感情移入してしまうはずです。クララがショーウィンドウに並んでいる頃からじっくり丁寧に描かれているので余計に。
クララが神のように捉えている「お日さま(太陽)」、これもまた物語を印象付ける大きな存在です。クララはお日さまは生命力を豊かにし、時に人やロボットの調子を良くしたり、時には命を救う存在と信じています。
大きくて暖かくて絶対的なものをまっすぐに信心しているクララの姿というのがまた、純真な人間の姿のようなので、それで余計にクララの役割の終わりが読んでいて辛くなるのです。
でもクララは幸せで。
相反する気持ち。あと、こういう世界だからこそ光るクララの清らかさ。
これがまたカズオイシグロの世界ならではなんだろうなと思いました。
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marble marble マーブルマーブル
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