てんとてん

喫茶好きのイラストレーターの日常ブログ。てんからてんへ、ぼんやりとした日々。

夏の読書感想文『銀河鉄道の父』

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みなさんは、宮沢賢治は好きですか?


私は、小学生の時に教科書で「雪渡り」を読んでからファンになりました。
時々分かりにくい文体もあるのだけど、宮沢賢治にしか表現できない言葉の選び方、使い方があって、映像にしてみたくなるような、とっておきの美しい世界に惹かれます。

 

高校生までは宮沢賢治が好きな事を、「感受性豊かな私」というふうに特別なアイディンティティのように思っていました。

でも美大に入ると同じような子が大勢いることが分かり、とっておきだったはずのマイノリティな感性は、美大内ではマジョリティだったと気付かされました…。

そんなもんですよネ。

 

銀河鉄道の父 (講談社文庫)

銀河鉄道の父 (講談社文庫)

 

この本は、今までにない「宮沢賢治の父」が主人公です。


賢治の生涯を通じ、父が何を思っていたのかが物語の軸です。

ボリュームのある本で、最初は読んでてくじけそうでしたが、根気よく読んだかいのある、素敵な話でした。

 

考えてみると宮沢賢治のことは、「岩手で畑を耕しながら先生もして、苦労しながら執筆し、若くして亡くなった」という事しか知りません。

 

しかし!!
実は裕福な家庭で大切に育てられ、病気持ちではあるものの優秀な子でした。厳格でしっかり者の父の元で守られていたのです。

にも関わらず、賢治は自らの意思で苦労する方へとどんどん道を開いていってしまい、その結果文筆という道を選べはしたものの、親の視点から見れば、まあまあの問題児です。


仕事が続かなかったり、浪費家であったり、宗教へ走り東京に行って活動を始めたり。
畑や先生は、生活のためというよりは文筆の表現力に活かすため。
「健気な賢治」というイメージはどこへやら…。

「のちの宮沢賢治である」という事が分かっていても、いやンなっちゃうくらいボンボンのダメ息子やん。
と、けっこう衝撃的でした。

 

逆に全く知られていなかった賢治の父は、仕事をこなししっかりと家庭を支え、まともな人という感じです。賢治とは対極の印象です。
賢治の行動には時々疑問を示しながらも理解しようとしており、読む限りでは素晴らしい人です。
この父から、あの感受性豊かで繊細な文体で人々を魅了する賢治が産まれたのか…。と、それもまあまあ衝撃なのですが、ほんとに、この素晴らしい父の見守りにより、賢治の感性は生き生きと文筆活動に活き、今も人々の心を魅力しているんだな、という気づきがあります。

 

我が子はやっぱりかわいくて仕方ないのですね!
くさいですが、“親の愛の物語だ”と思いました。

 

  • 読んでいて悲しくなったこと

賢治は自分の本が売れる事を知らずに亡くなってしまうんです。

自費出版をしたり出版社に売り込みもしたけどその時は結果を得れず、ただただ周りに申し訳ない…才能がないのに勘違いして執筆などして…という気持ちで亡くなります。やるせない気持ちになりました。
その後賢治の弟が兄の本を売ろうと奮闘した結果、世に知れ渡る事になりました。素晴らしい家族です。

 

  • 賢治のわらす

賢治は優秀な父に劣等感があります。適齢期でも結婚もせず、子供もいない自分と父を比較して落ち込みます。
ただ文筆を通し、「本を読んでくれる人がいっぱいいたら、読者の数がおらの“わらす”(子供)だ」と思います。
私も賢治のわらすだったか…!と思いました。笑

 

  • 個人的に嬉しかったこと

賢治が初めて執筆活動を行うのが、東京の文京区だったことです!本郷のあたり。
意外じゃないですか!?ずっと岩手かと思ってました。
文京区の自宅と、台東区鶯谷にあった宗教の集会所を行き来する賢治の姿が書かれており、近所やん!!と嬉しくなってしまいました。

自分のマグマが爆発するようにどんどん執筆していく様は、読んでいてもわくわくします。すごく良いシーンです。

 

普段オーソドックスな小説を多く読む私にとって、歴史小説って新鮮でした。

ましてや「宮沢賢治=自分の中で美しいイメージのまま、大事にしているもの」に突っ込んでいくことによって、気持ちを乱されるかなと不安でした。

確かにショックな部分もあったけど、“好きなものに知らなくていいものなんてない”、と誰かが言っていたような。

今現在40代に入り、ある程度たくましくなった自分の中で、新しい扉が開いたような感覚もありました。

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marble marble マーブルマーブル

イラストレーターです。日々気になったことをテーマに問わずブログにしています。マーブルチョコのようなカラフルで雑多なブログを想定し、「marble marble マーブルマーブル」としました。純喫茶、マッチ、散歩、昭和の建物、昭和歌謡、片付け、スケジュール帳などが好きです。コメント欄がありません。ご感想などはこちらまで→marble●tellacoli.com(●→@)
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