てんとてん

喫茶好きのイラストレーターの日常ブログ。てんからてんへ、いろんな日々。このたびブログタイトルを「マーブルマーブル」より「てんとてん」に変更しました。

【読書感想文】地元の小説と喫茶店。「ちろる」が出てくる『氷点』読みました

旭川市出身の小説家、三浦綾子さんの作品『氷点』を、先日初めて読みました。

地元で最古と言われている喫茶店「ちろる」が出てくることでもお馴染みです。

『氷点』は全4巻。『氷点』上下巻、『続・氷点』上下巻です。

今現在、『続・氷点』の下巻を読みはじめたところ。

続編はおそらく『氷点』が評判で続きを書くことになったのではと思います。

 

ここでは『氷点』上下巻の感想を書きたいと思います。

 

ネタバレ必須になりそうなので、未読の方はご注意くださいね。

 

とある家族の「許し」「死」「罪」を扱う、重ためのヒューマンドラマです。

ただ、年上の女性が若い女の子への妬みと恨みつらみで嫌がらせをしたり、夫が妻への嫉妬による復讐心でひどいことをしたりと、人間のどろりとしたものも多く描かれます。

激しいぶつかり合いや罵りもあり、会話劇も多いことから昼ドラテイストのある物語でもあります。

 

三浦綾子さんはクリスチャンとして知られています。

氷点で大きく描かれるテーマである「人のあやまち」「許し」「罪」「懺悔」。

これらはキリスト教の思想との結びつきが深いのだろうなというのがまず想像がつきます。

 

人は誰しも清らかで、まっすぐでありたいけれど、必ずしもそうではないので、皆さん誰かを憎んだり、嫌な態度をとったり、そしてそんな自分を責めて苦悩したりします。

『氷点』に出てくる登場人物は、全員その何かで苦しんでいます。

苦しみの中でその感情にどう向き合い、相手とどう接していくか、どういう人生を送っていくかを考えていくことが緻密に描かれているところ、そしてダイナミックなストーリー展開のうまさ、会話の内容の巧みさなどが、『氷点』は文学作品として大きな評価を得ているんじゃないかなと思いました。

 

ここから細かく私の感想をくだけて書いていきます。

いやいやいや…うん、“昼ドラテイスト”と書いたその世界観に、最初はなかなか入っていけませんでした!

ほんとに、なかなかのジェラシーっぷり、色恋っぷり。ほだされっぷり。

 

主役の夫婦ふたりはほんとうにドロッドロしています。

自分たちの娘が他殺されてしまったことが物語のスタートなので、とても悲しく、かわいそうな2人ではあるのだけど、

それにしても嫉妬や復讐心から周りを巻き込みすぎです!

そしてその2人に絡んでくる、諸悪の根源の村井!

いやいや私は村井、大っ嫌いです。

 

村井といい、主人公啓造の妻夏枝といい、あれは「人間らしい」で片付けてしまっていいのか…?

息子の徹、養女の陽子、陽子と親しくなる徹の学友北原など、

若い子たちは全員おとなのエゴに巻き込まれています。

 

彼らの清らかであるはずだった人生。

特に陽子がされたことはあんまりです。

陽子は清らかでありたいので、夏枝にどれだけ嫌がらせをされても恨もうとする精神は持ち合わせていません。

そうなることで自身が歪んでしまうのを頑なに拒否しているんです。

そして、母が私にきつく当たるのは、何かの理由がおありなんだろうとまっすぐに考えます。

真っ当な、素晴らしいことだと思います。

真っ直ぐすぎてそれがかえって夏枝の陽子への憎しみをあおり、激化していくさまは見ていられないです。

なんならギャグのよう…

陽子はなんの否もありません。

だけど夏枝は、さらにそんな陽子を追い込んでしまう。

 

そして物語のエンディングでは、『氷点』というタイトル回収にもつながる、とても悲しい出来事が陽子に起きてしまいます。

服毒で死のうとしてしまうんです。

彼女は自分の生い立ちに、自身の内側にある『氷点』に気づき、人生が180度、ひっくり返ってしまうんです。

三浦綾子さんは「塩狩峠」といい、タイトル回収がめちゃくちゃうまい。ほんとに。

読んでてゾクッとしました。

 

こんな悲劇が起きてしまった原因。

それは間違いなく夏枝の言動ですが、夏枝もまた夫からの誤解と復讐心を一方的に持たれたことで、陽子に対して大きな勘違いをしていました。

そして夫は夫で夏枝を誤解しています。夏枝と村井の関係に嫉妬心と復讐心があるんですが、それも実は彼の勝手な思い込みによる誤解の部分が多いんです。

 

…そうなんです、私が腹が立ったのは、子供たちがかわいそうな犠牲にあってしまっているのは、大人たちの盛大な「コミュ不足によるすれ違いが起きているだけ」だからなんです!

私は読みながら「アンジャッシュ名物すれ違いコント」かよ!

というツッコミを何度もしていました。

↑極端な表現なのは承知なのですが、なんだかわかりやすいでしょ?苦笑

 

大人たちは、アンジャッシュをやっている場合ではありません。

大人たちの苦悩もわかりますし、緻密な心理描写は読み応えがあるのですが、そもそもがコント設定なのだから、苦悩するのはちょっと違います。

コントの登場人物同士ですみやかにコミュニケーションを取り、すれ違っていた誤解を解かなくちゃいけないんです。

 

すれ違いが故にどんどん悪い方へ悪い方へ進んでいくストーリーは、途中までとても気分が良くなかったです。

 

そんな最中で旭川の喫茶店「ちろる」は出てきます。

私はあの素敵な、旭川最古の喫茶店がどんなふうに出てくるのかなあとソワソワしながら読んでいました。

そうしたらここにきたのはよりによって夏枝と村井。

君たちかよ!と思ってしまいました。

 

『氷点』の良心、辰子がちろるに来るんだったらよかったなあ。

辰子は大人メンバーでは唯一歪みのない、超絶まっとうなお方かと思います。

もしくは高木。

彼も悪いけど、でも人は良い。

もしくは陽子と北原(初々しい2人)だったら最高だったなあ。

 

などなどいろいろ思いつつも、夏枝と村井がちろるで座ったのはどの辺りかなあと想像するのは楽しかったです。

舞台が旭川なので、買物公園など馴染みのある街の描写、見本林のあるエリアなどが出てくるのもおもしろかったです。

 

とまああれこれ突っ込んだりしながら「すれ違いコント」に終始嫌な気持ちで読んでしまった『氷点』ですが、

そんな私がいま引き続き『続・氷点』を読んでいる。

 

嫌なら読むのをやめたらいいのに。

 

理由は、陽子の今後が気になって仕方なかったからです。

陽子は、徹は、北原はどう生きていくんだろう。

どうかダークサイドに落ちないで行って欲しい。

 

ちなみにわたしが氷点を読む時に大人サイドではなく子供サイドの心情に寄り添って読むのは、ある意味私も中身が子供なのかも。

なにか「大人にこうなってほしくない」という許しがたい部分、潔癖な部分が私にもずっとくっついているからなんだろうなと思います。

 

たぶん読む人によって寄り添う人は変わってくると思うし、その捉え方で作品の雰囲気も変わると思う。

夏枝の夫であり徹、陽子の父である啓造といういち社会人が主人公だから、氷点は緻密に心情が描かれた文学だけど、夏枝が主人公なら昼ドラだと思う。

村井は優秀なお医者さんかもしれませんが中身はクズなので、でもここを主役に掘り下げると、ある意味純文学の色が強くなる気がする。

 

ところで『続・氷点』ですが、『氷点』の最後の最後で「すれ違いコント」は終焉を迎えたため、私の「アンジャッシュかよ!」なツッコミも発生していません。

変なフラストレーションを溜め込まずに読んでいます。

ただストーリーを追い、スラスラと読んでいます。

つくづく三浦綾子さんは、話の作り方や会話の内容とテンポがおもしろいです。

 

ちなみに続編ではしっかりと夏枝の陽子への反省と謝罪が出てきました。

スッキリした〜。

 

以上、めっちゃ長文ですが、これが私の『氷点』の感想文です。

ここまで読んでくださった方がいたらありがとうございました。

『続・氷点』の感想文も書く可能性が大いにあります。

 

やっぱり感想文はよい…

大量の活字を読み、その間に頭の中にぶわーっと沸き起こったいろんな気持ちは、文にまとめると心身ともに整理される感じがある。

視点を磨くトレーニングになっている気がする。

 

『氷点』に出てくる旭川最古の喫茶店、ちろる。

私はこの、右側の列の真ん中らへんに座ったんじゃないかな〜と勝手に思っているんですよ。

ちなみにちろるは一度大改装があったので、左側は本棚があったりとレイアウトが違っていました。

こんな感じの席で夏枝と村井は向かい合って座ったのかな?

 

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東京在住のイラストレーターの日常の記録。
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