てんとてん

喫茶好きのイラストレーターの日常ブログ。てんからてんへ、ぼんやりとした日々。

【冬の読書感想文】町田そのこ著「52ヘルツのクジラたち」

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町田そのこ著「52ヘルツのクジラたち」。

2021年の本屋大賞受賞作品だそうです。

毒親」にあたる実母からネグレクトを受けてきた経験を持つ主人公の「貴瑚」。義父の介護をたった一人で全て押し付けられ、なにかをやらかした訳でもないのに家族から忌み嫌われ、死を意識していた矢先に「アンさん」と同級生の「美晴」に救われる。

その後、東京から大分に移住。

そこで13歳の少年と出会う。

虐待を受けていた少年を見た貴瑚は、自身のかつての姿と少年を重ね合わせ、少年を助け出す試みを行う。

 

というのが大まかなストーリーです。

「52ヘルツのクジラ」というのは、他のクジラからは聞き取れない高い周波数で鳴く、孤独なクジラという意味で、「クジラたち」というのは主人公の貴瑚、少年。

そして話を追うごとに「52ヘルツのクジラ」は彼らだけでもないことにも気づかされます。

 

お話は非常にハードで、最近のネグレクトや児童虐待のニュースを目にするたびに、この物語に出てくるお話は、実は身近にもあるんだなというのを実感します。中には目を塞ぎたくなるような辛いニュースもありますね。

同じような経験をした方が読むと、体を通して感じる痛みというのが、貴瑚や少年から鋭く感じとれるのではないかと思います。

 

貴瑚の共感力、母性というのはストーリーの軸であると同時に、貴瑚の持つ素直さが故の(?)あやうさが周りを思いがけずに振り回す形にもなり、そののちにこのお話の後半では、特に辛いエピソードが待っています。

たらればが止まらなくなるような、辛い展開でした。

 

相手に届かない場所から発する声に、人はどれだけ耳を澄ませるか。

聞き取ってもらえないと人はどうなるのか。

誰かに聞き取ってもらえると、どうなるのか。

それが物語の大きなキーワードでもありました。

 

他のクジラからは聞き取れない高い周波数で鳴くというのは、まず鳴き続けること自体がしんどいですよね。絶望だろうし、伝え方がそもそもわからないことだって多いと思うし、鳴くこと自体を投げ出したくなるのではないかとも思います。

よからぬ方向に転じ、死に至ってしまったり、もしくは自分が受けた辛さを周りにも味わわせたいと思うようになるかもしれない。

この本では、そんな部分にも触れておりました。

親から子へ、負の連鎖をしていくさまが描かれています。

 

ただ、自分じゃどうしようもない時に、誰かがいる。人と人は、助け合う。優しい気持ちのありがたさやあたたかさ。

それがこの作品では終着点となっているので、希望がありますし、読後感は心地よいです。

 

自身の人生をのろいたくもなるけれど、人って普通じゃないこともたくさんあって、思いがけないこともいっぱいあり、奇妙だけれど心が通う瞬間というのも確かにあり、おもしろいなとも思いました。

ここに出てくる13歳の少年は、運が良かったのかもしれません。小さな頃は、自分でどうすることもできないことの方が圧倒的に多く、運命はどうしようもありません。

なのでそんな中で、52ヘルツで発信し続けることが、少年自身が壊れずに済んだ唯一の救いだったのだなと思いました。

 

 

ところで、本屋大賞受賞作の基準が何かは、私はよくわかっていません。

もともと純文学的なものを軸に本を読んできた経緯があって、何かを受賞する作品に、当時の作風を重ね合わせちゃうクセがあり、「へーこれが受賞作なのか」と、ピンとこない部分もあります。

「52ヘルツのクジラたち」には、作品の持つ痛みやあたたかみを感じたのと同時に、シリアスなドキュメント映像の原稿文のようにも感じ、正直「文学とは…?」という気持ちにもなりました。

 

だけどやはり、現代の問題を大きくテーマにしたこと、それによってそのテーマに関心を持つ人が増えること、幅広い読者層を持つ可能性があること。

などが、理由なのかもしれません。

だって、本がたくさん売れて、本の業界が盛り上がることが作品賞を掲げる最大のテーマだと思うから。

 

…って書きながら、よくわかっていないんですけどね。

 

読書量が増えれば、「なるほど確かに」って、もっとストンと腑に落ちるのが早まりそう。

と言いつつ、正直、次から次へとたくさん本を読みたいわけでもないのですが。ほかにもやりたいことがたくさんあって…。

 

少しずつ、色々と触れてその時代の背景や、今の時代だからこその作家さんの作風、文体なども楽しんでいけたらなと思います。

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marble marble マーブルマーブル

マーブルチョコのようなカラフルなブログになるよう「marble marble マーブルマーブル」としました。純喫茶通いはもうすぐ1000軒。今まで通った喫茶店を【純喫茶リスト】にまとめています。Instagramでは、【喫茶通いのイラストルポ】をアップしています。
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