てんとてん

喫茶好きのイラストレーターの日常ブログ。てんからてんへ、ぼんやりとした日々。

【冬の読書感想文】獅子文六著「コーヒーと恋愛」

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獅子文六さんの小説「コーヒーと恋愛」。もともとは「可否道」というタイトルでした。

文庫化のタイミングでタイトルが「コーヒーと恋愛」に。その後、表紙デザインがリニューアル。当時、サニーデイのアルバムジャケットと重なる表紙に、一気に心をつかまれた思い出。

ついに読み切ることができました。

サニーデイサービスの2ndアルバム「東京」。

札幌に住んでいた頃によく聴いていました。

東京

東京

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私はこのアルバムの世界観で東京という街を想像し、田舎者が抱きがちな「憧れの東京の生活」のイメージをガチガチに固めておりました。

都会的なキラキラしたビルも遠くに見えつつの、東京のどこにでもあるような住宅街に暮らし、商店街があり、昭和から続く風景があり、電線があり夕暮れがあり、電車に乗って、おしゃれな服屋さんにドキドキしながら行ったり、憧れの作家さんの展示を見たり、本を読んだり音楽を聴いたり。

そんでもって喫茶店ではおいしい珈琲を飲む。

さりげなく、なんでもない感じで。

素敵じゃないか。

そんなノリ(?)で進学のため上京。東京の暮らしのスタートは楽しかったです。サニーデイサービスのおかげで憧れの世界がしっかりとあったので。家からは下北沢も近かったですし。

ただ、なんか今振り返っても「勉強頑張るぞ」という感じは実はなくて、気持ちがフラフラしてしまっていたので後から大変でしたが。

 

そんなこんなな?サニーデイサービスの曽我部さんがこの文庫本の解説をしております。私は本をしっかりと読み切り、ちゃんと自分で反芻したのちに解説文も楽しもうと、二度のワクワクを味わいました。

 

お話はというと、芸能関係の業界人たちが織りなすレンアイ話です。

主人公は“脇役のお母さん”としての地位を築いた売れっ子女優「モエ子」。

ほか、舞台に熱を注ぎ、まだ芽が出る前の年下の旦那さん、同じく芽が出る前の若い女優さん、そして「可否会」会員の、業界人のおじさんたちが主要人物です。

「可否会」というのは、味やうんちくに精通したコーヒー通な業界人たちで結成した、コーヒーを愛する人たちの集まりで、主人公のモエ子はこの仲間の一人。

彼女はコーヒーをおいしく淹れる天才であり、誰もがその味に惹かれており、特に「可否会」会長の菅さんは彼女の腕を大変気に入っています。

菅さんはかなりのうんちくさんで、コーヒーの味を理解することに人間の価値を見出しているところがあり、そうではない人たちのことは完全に下に見ています。

モエ子の年下の旦那さん「ベンちゃん」も、モエ子の淹れるコーヒーの味をよく理解している一人であり、二人はそれが縁で出会ったようなもの。モエ子は彼が喜んでコーヒーを飲んでくれることを幸せと感じています。

 

ストーリーはとても大衆的というか、楽しく読めるレンアイもので、別れや略奪、涙に裏切りに新しい出会いにと盛りだくさんなドタバタ劇。

こういった業界を舞台にした戯曲のようでもあります。

そして、想像していた以上にコーヒーは大きなキーワードで、登場人物たちから語られるコーヒーの味やうんちくを読み込むのも楽しかったです。

物語の終着にも、コーヒーは大きく関わってきます。

 

テレビ黎明期を生きてきた業界人たちの空気や、当時の人たちの価値観(今とはちょっと違う)などに触れるのも、その時代を知るのに役立つし、特にこの物語は会話が多いので、なんだかリアルで生々しいやり取りもおもしろかったな。

登場人物たちがけっこう毒づいていても、今だと問題アリになってしまいそうな上から目線な発言をしていても、なんだか豊かな、ふくよかな時代の空気を感じるのはなんなんだろう。

ありがちな分析ですけど、ネットがないからかな。全部対面で、目と目を合わせて会話をしている時代の、ストレートで濃密な会話劇。

 

そしてちょっとお洒落でした。

コーヒーをこれだけがっちりと物語の軸にしていることからも、なんだか洗練されたような、垢抜けた世界観を感じたりもしました。

獅子文六さんご自身もコーヒーを愛しており、調べると若い頃にフランスで現代劇を学び、フランス人と結婚し、帰国後には劇団を立ち上げ文筆業にも勤しみ…と、なんだかイケてるおじさまな空気がプンプンと。

現在文庫化されているほかの本もお洒落な装丁のものが多く、また読みたくなってしまいました。

 

最後にやっと曽我部さんの解説文にたどり着いた!

すごく久しぶりに曽我部さんの文章を読みましたが、これまた洗練された、お洒落な文体。優しく語りかけているような、そしてしっかりと冷静でもあるような。

すごく懐かしかったです。

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よく読んでた本。文体も去ることながら、ペーパーバックのようなサイズ感や、カラーブックスのようなビニールカバーも好きでした。曽我部さんの作る本やCDのデザインも好きだったなあ。アルバムのフォント選びとかQ数までも、個人のこだわりを感じてました。サニーデイのデザインフェチでした。懐かしい!

 

サニーデイサービスファンとしては、この解説文で初めて曽我部さんが古本屋でたまたま手に取った獅子文六さんの「コーヒーと恋愛」、それをもとに「コーヒーと恋愛」という曲ができ、2ndアルバム「東京」の最後のトラックに入れた、というエピソードが具体的に読めたのも良かったです。

 

前からずっと心のどこかで気に留めていた

「いったいどんな話なんだろう。なぜ、サニーデイサービスのアルバムと同じデザインなのだろう」

を一気に紐解くことができ、お話自体も気に入ったこともあり、大満足な読書となりました。

 

 おしまいです。


【冬の読書感想文】、初っ端から詰め込んだ長文の内容になってしまいましたが、ここまでがっつり作り込む感想文はこれっきりにしようと思います。だってすごく時間がかかるから…。

あとはのんびり、なるべく短文で。

と思っているけど、どうなるか!?


それでは、お読みいただきありがとうございました。

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marble marble マーブルマーブル

マーブルチョコのようなカラフルなブログになるよう「marble marble マーブルマーブル」としました。純喫茶通いはもうすぐ1000軒。今まで通った喫茶店を【純喫茶リスト】にまとめています。Instagramでは、【喫茶通いのイラストルポ】をアップしています。
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