毎年趣味で書いている「夏の読書感想文」。
今年は拙著「ほっかいどう喫茶の手帖」に掲載したお店と絡めた感想文を、3冊分、書いてみました。
どの本にも実在する(実在した)北海道の喫茶店が出てきます。
本を読んだ感想と、実店舗の感想やエピソードのあれこれ。
ちょっとマイナー視点だけど、少しだけ私の趣味にお付き合いいただければ嬉しいです。
倉本聰さんが書かれたシナリオブック「優しい時間」。
2005年にフジテレビでドラマ化され、富良野の喫茶店が舞台になっています。
喫茶店は『森の時計』といって、ドラマでは寺尾聰さんがマスター・勇吉を演じられ、亡くなった妻・メグを大竹しのぶさん、絶縁中の息子・拓郎を二宮和也くん、息子といい感じになるヒロイン・アズを長澤まさみさんが演じてます。
ここの喫茶店の特徴は「お客さんが自身でミルを挽き、そのお豆で淹れたコーヒーが飲めること」。
これは妻の発案。
勇吉は「そんなに面倒なことみんなやるかなー」と思うんですが、妻は「やるわよ。その分価値も上がる。コーヒーの値段も多くとるのよ」と意見を(妻、できる人…)。
そんな妻は、当時不良だった息子が運転する車で不慮の事故に遭い、還らぬ人に。
愛する妻に先立たれてしまったこと、息子の素行から勇吉は彼が許せなくなります。
また息子もそれに反発する形で2人は絶縁。
やがて脱サラした勇吉は東京より富良野に越し、『北時計』という喫茶店のママ・朋子(妻の親友…演じるのは余貴美子さん…喫茶店は実在しており、今は改名)のもとでコーヒー修行をします。
そして、妻のアイディアの活きた『森の時計』を、富良野の自然の中にオープンするのです。
これは私が2009年に撮った森の時計さん。ここがそのままロケ地として使われました。肝心のカウンターには人がびっしりで、周辺だけ撮りました。暖炉や窓の外の木々などが北国という感じ。
今やどこで何をしているかもわからない息子・拓郎でしたが、実は彼は富良野から近い美瑛の『皆空窯(こちらも実在。著名なフォトスポット「青い池」の近く)』で陶芸家になるために修行をしながら、父のことを思う日々を過ごしているのでした。
皆空窯(かいくうがま)。アトリエとギャラリー。同じく2009年に撮りました。母がコーヒーカップを買っていたな。
物語は、そんな息子と父が親子の関係を取り戻すまで、また、それを見守る人たちの日常、そして北海道の自然が丁寧に描かれます。
息子の思い、父の思いはシンプルで。
許せなくて、だけどお互いをずっと思ってもいて。
今読み返すと、お父さんが思っていたよりも頑固で、息子に対して考えていることが冷たくて、ちょっとかわいそうだなって思うんですけど、でも周りのサポート、そして今の息子の姿を見て、2人は少しずつ雪解けをしていきます。
雪解けになっていくにあたり、キーパーソンが3人います。
○北時計のママ・朋子(ズバッという。父と息子どっちの立場も理解している)
○森の時計のバイト・アズ(若さゆえの向こうみずで真っ直ぐな行動や、彼女のドジな性格があって2人を結ぶきっかけになる)
○妻・メグ(亡くなっているけど、ときどき閉店後の喫茶店のカウンターの端の席に現れる。マスターとカウンター越しに2人だけで対話をする。マスターは妻の優しい言葉に支えられる…対話後にはスッと消える。ドラマでは視聴者も癒されてしまう、優しいシーン)
皆がそれぞれ不器用ながらも素朴です。
優等生はいない感じ。朋子も一回、勇吉に色目使っちゃうし。
だけどその人間模様が物語や喫茶店の雰囲気、そして北海道の風景ととてもよく合っています。
私はこの、倉本聰さんの紡ぐ…
なんていうか、温もり感、時間のゆっくり流れる感じ、なんだか全てが愛おしく思う感じ…?
というのにすごく弱いです。
ドラマの中で時々入る、北海道のゆっくりとした雄大な風景の映像も良くて。
ローカルな場所の豊かさというのを教えられている気がします。
思えば私は中学生の頃からそんな世界観に惹かれ、「北の国からシナリオブック」を全部借りて読んでいました。
今回も本を開いて少し経って、そういう気持ちが蘇ってきて。
私が富良野や美瑛に近い街で育ったからですかね。
でも全国にガチの「北の国からファン」「倉本聰さんファン」っていらっしゃいますよね。
あ、さだまさしさんの作った曲たちは、ほんとうに作品に似合っていますね。
あのクラシックギターやフルート(かな?)などの音色も…。
あの作品の、あの世界だからこそ刺さる癒しの時間。
忘れた頃に、たまに聴きます。
ちなみに私、グーッとくるだけならいいんですけど、ちょっと今の生活が虚しくなっちゃうんですよね。
何を私は一生懸命に毎日スマホを触って、忙しなく過ごしているのかなーと。
いろいろと拗らせて、人生いじくってきちゃったんじゃないの?みたいな。
…いや、振り返ってみるとそう生きてきた理由も自分なりにあって。
東京の暮らしが自分には合っています。これまでの暮らしで愛すべき東京をたくさん知れているし、ネガティブな場所では決してない。
…と言い聞かせてます。
ただ「思えば遠くに来たもんだ」って気持ちにはなります、すごく。
倉本聰さんはあとがきでご自身のことを「森の洗濯屋だ」と書いてました。
ご自身も富良野に住み、森のような場所で暮らし、そこでの毎日が創作の支えとなっているんだそうです。
「人の心を洗うために、僕は作品を書こうと思っている」
このエリアには倉本さんの事務所があって確かお酒を楽しむバーもあって、そして他愛のないことを鍋をつつきながら話せる「オヤジ仲間」もいたはずです(これは別のエッセイか何かで読みました)。
そのような暮しの中で「森の時計」という場所が生まれ、寺尾聰さんが演じた不器用だけど優しい眼差しのマスターが生まれ。
実在するお店の中で、ドラマとリアルが交差しているんだと思います。
(実際の『森の時計』マスターもどんな方なのか気になりますね!)
今はもしかしたら年月が経ったので、また雰囲気が違うのかなー。
私もイラストルポを描かせていただいたことで改めてご挨拶もしたいですし(もろもろ経営に携わっていらっしゃる富良野プリンスホテルの方、そしてマスターにも)。
そしてまた、あそこでミルで豆を挽いてコーヒーを飲みたいです。
ちなみに物語に出てくる若い2人。
拓郎は「元ヤン」で肩にはがっつりタトゥーが入っていて(死神っていうタトゥー…)、アズにははリスカの癖があって。
日常のニュースなどで触れる若者として、こんな感じの子達がいたら、私は正直「あいたたた」って思っちゃうんです。
DQNやんって思っちゃうんです、私。先入観で。
だけど本を通じて2人に触れると、それゆえの真っ直ぐさが刺さります。
私「あいたたた」って言ってるけどさ。ずっと2人の方がピュアで真っ当に今を生きているんじゃないの〜?みたいな。
拓郎の作る器も、きっと良くてグッとくるんだろうなーとか。
森の洗濯屋とおっしゃる倉本聰さんに、確かに私も私なりに心が洗われているのでした。
ちなみに私が本の中で描いた『森の時計』は、全て夏の富良野です。
爽やかな気候の北海道のカフェを描きたかったので…。
また違った季節の『森の時計』も、改めて楽しんでみたいなーと思っている今日この頃です。
ここからいきなり、写真のコーナー。
美瑛の丘をドライブした時のもの。
美瑛の丘はあくまでも農場であって観光地ではないので、手付かずの自然が楽しめる。
きれいだなー。
収穫の季節を迎えた後の、秋の畑。
こっちは、昔撮った冬の畑の写真。
まだこの頃はデジカメ写真もちゃんと保存してなくて。
アナログ写真を引っ張り出してきました。
また足を運べますように。
・・・・・てんとてん ten to ten・・・・・
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