夏休み期間に趣味で読書感想文を書いています。
今年は拙著「ほっかいどう喫茶の手帖」に出てきた喫茶店、その喫茶店がモデルとなっているであろう本を紹介しています。
前回のブログでは、倉本聰さんの『優しい時間』と、喫茶店『森の時計』を。素朴であたたかなストーリー。
今回はまた全然違って「都会のお姉さんが見た北海道」。
能町みね子さんのエッセイ「逃北」です。
『逃北』感想文
能町さんのエッセイ本、今までいろいろと楽しんでいるのですが(友人にもファンが多いです)、「逃北」という本は、中でもニッチな視点という気がします。
「日常に疲れた。南国に行ってバカンスしたい。ボーっとしたい。リラックスしたい」
っていうのはわかりやすいですよね。
一方能町さんは「どうしても北に惹かれる性分」だそうで、かなりお若い頃から北国への旅をたくさんされています。
「日常に疲れた。寒い北国に逃げて、その地に溶け込んで生活しているような気分で旅をしし、リフレッシュしたい。」
そう思うそうです。
わかる〜って思う人、南に比べてガクッと減るんじゃないかと思います。
「なぜ北に惹かれるのか」を、能町さんは何度もエッセイの中で分析されています。
絶対こんな表現はご本人は嫌かも知れませんが、能町さんの北の旅には少し「自分探しの旅」が含まれているのかな?と思います。
(というか、あえてそういう視点をテーマに、本にしていると思います)
ちなみに私も間違いなく、北に惹かれる性分です。
変な話、熱帯の地で死ぬのと極寒の地で死ぬのでは、圧倒的に後者がいいです。
寒くてなんもない場所に身を置くと、気持ちが静かになって頭が冴えて、安穏とできるんじゃないかなって。
それはとても心地よいことなんだろうなあと、なんか思ってしまうんです。
なんでしょうね。
血筋?
すっぽりと雪に包まれた風景が好きなのかな?
単に本質が引っ込み思案だから?
南でぼーっと幸せに暮らしたいという欲に比べ、なんと説明のしにくいものか。
サウナの「整う」みたいな、伝わりやすくキャッチーな言葉があるといいんですけどね〜。
能町さんのエッセイは、ひとつひとつのエピソードが流れるような文で書かれていて、人との出会いとか、見かけた地元の人のことなど、おもしろい話もいっぱいで。
紛れもない頭の良い人という感じで。
文体の心地よさを味わいながら読んでいます。
その場に溶け込もうとし、地元の人と勘違いされると喜ぶ能町さんがおもしろいです!
文に添えられている「素敵ポイントをしっかりと観察した絵」もかわいいです。
『逃北』と喫茶店『挽香(閉業)』
北海道の稚内にて、能町さんがどうやら何度も足を運んでるっぽい喫茶店が出てきます。
喫茶店の名前こそエッセイには出てきません。
だけど私はあの喫茶店は『挽香(閉業)』で間違いないだろうと思っています。
少し出てきたエピソードが挽香のマスターっぽかったから。
海外との行き来の話が出てきたから。
『挽香』は名著「47都道府県の純喫茶」にも出てくるお店だとは、私は何度かブログにも書いてます。
あの本でも、能町さんの本でも、書かれているのは『挽香』の「ひと」でした。
なんだろうな。
日本の端っこの、稚内のいちばん北に「挽香あり」「挽香のマスターあり」っていう感じがすごくしたんです。
笑顔の良い、大らかそうなマスター。
鮮明に覚えています。
能町さんもこのお店で…うーん、どの席についたのかな。
複数回訪れているようだったので、二回目以降はカウンター席かな。
(今さら違った喫茶店だったらごめんなさいなのですが)
稚内はロシア語がいっぱいで、挽香にもロシア語のメニュー表があったのも印象的でした。
港にはマトリョーシカもかわいく並んでいて、ここは他の街とは違うんだなというのを実感しました。
情勢の変わった今は、どうなっているでしょう。
『挽香』も存在しなくなった今、なかなか稚内まで足を運ぶこともないのですが、それでも不思議と今も思いを馳せる場所の一つです。
『挽香』に行った理由
ところで私が『挽香』に行ったのは、あっちこっちの喫茶店に行くぞー!といちばん張り切っていた頃です。
2014年の話です。
「日本でいちばん北の端っこにある喫茶店に行ってみたい」と、いつもだったら帰省で旭川空港に行くところを、稚内空港に行きました。
Googleマップで調べ、多分ここかなあと思ったのが『挽香』でした。
稚内に行く飛行機は、一度ビューンと日本から北へ飛び出します。
そして、サハリンがよく見える場所まで飛んで方向転換して、稚内空港の滑走路へと降りてくるんです。
えっ、ロシアに行っちゃうの!?って一度でも思うあの感覚。
なかなか味わえないのでおもしろかったです(今とはロシアへの印象も違うので…)。
宗谷岬をパノラマモードにして撮った。なので地平線がぐにゃりとしている。
左の像は、間宮林蔵
夏とはいえ稚内だし涼しいだろうと思って行ったら30度超えの日だった。
挽香のマスターにも、稚内で1年間に10日もないような、こんな暑い日によくきたねと言われました。笑 よりによってね…。
宗谷岬に立てば日本でいちばん北の人になれるかなと思ったら、あまりの暑さに碑の奥で泳ぐ若者たちがいて、最北端に立つ人にはなれなかった。泣
時間があればもっともっと行きたい場所はたくさんあったけど、日没前に旭川に向かわなければいけなくて、早めに稚内を後にしました。
日本海沿い(通称オロロンライン)を通りながら遠くに見えた利尻富士。
ちなみに稚内は最北端なので、日本海とオホーツク海で潮の流れが変わります。
そのためカニなど魚介類は、どの時期どっち産がおいしいとか、いろいろあるらしい。
これも挽香マスターに教えてもらった。
技術がなくてもきれいな写真がガンガン撮れるー
ちなみに。
能町さんは稚内の喫茶店で仕事のことを思い出し、スマホを取り出し、いろいろと操作をしていると。
「マスターに“東京の人は忙しいねえ”と言われ、なんだか自分がすごくつまんない人間に思えてしまった」と書いていました。
ああ、言われるとショックだろうなー。
私も間違いなく言われるだろうな。
だって自ら積極的にスマホに手を伸ばし、忙しい方に舵を取る日々って感じだもの。
スマホがないと、生きていけない日々なんだもの。
あーあ、なんかつまんないな。
だけど私は能町さんはやっぱり東京が似合っているよなあと思ったりする。
東京発で、そういったローカルな場所に足を運んだり、出会いがあったり思いを馳せたりして、それを言語化して、絵やおしゃべりと共に私たちに届けてくれるのがめちゃくちゃお似合いというか。そういう使命を持った方(!)だと思う。
スマホも駆使して。そうであってほしいなあ。だっておもしろいんだもの。
タモリさんみたいに、「都会が似合うけど、地方の歴史や土地を伝えるのも似合う人」。
そっちでお願いしたいです。
暮らすのが似合う人。
暮らすのを伝えるのが似合う人。
そんな、前回(優しい時間)と今回で、違った視点での感想文をお送りしました。
〜おまけ〜『挽香』の手書きイラストラフ
「ほっかいどう喫茶の手帖」のイラストは、途中からiPadのペンタブを使っていたんですが、最初は鉛筆で描いたものをスキャナでPCに取り込んでいました。
写真は、『挽香』のラフイラスト。
撮った写真を画面上で見ながら、何度も描き直しました。
一見トレースのように見えるかも知れませんが、自分の好みに構図を変えているんです。
足したり引いたり歪ませたり。
左 スケッチを繰り返し、かなり整ってきた構図
右 それをきれいに描き直した完成下絵
です。
鉛筆スケッチのアップ。
描き直しができて便利なiPadは好きだけど、やっぱりこうやってみると生の線ってなんだかいいなー。
こっちも、左がラフ、右が下絵の完成図。
私はツーショット写真を撮ったのが嬉しかったので、最初それを大きく絵にしようと思ったけど、マスター1人の方が絵としてカッコよかったので、右の本書きで私は消しました。笑
・・・・・てんとてん ten to ten・・・・・
- 東京在住のイラストレーターの日常の記録。
- いろんな点と点をつないで毎日は続く。
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