てんとてん

喫茶好きのイラストレーターの日常ブログ。てんからてんへ、ぼんやりとした日々。

夏の読書感想文『氷点』『続・氷点』と、それにまつわる北海道の喫茶店『ちろる』

毎年趣味で書いている「夏の読書感想文」。

今年は拙著「ほっかいどう喫茶の手帖」に掲載したお店と絡めた感想文を、3冊分、書いてみました。

どの本にも実在する(実在した)北海道の喫茶店が出てきます。

本を読んだ感想と、実店舗の感想やエピソードのあれこれ。

 

ちょっとマイナー視点だけど、少しだけ私の趣味にお付き合いいただければ嬉しいです。

『氷点』という作品について

旭川市出身の小説家、三浦綾子さんの作品『氷点』。

地元で最古と言われている喫茶店「ちろる」が出てくることでもお馴染みです。

ちろるの歴史を知りたいし、同じ出身地の方の有名な作品をずっと知らないままなのもなーって思い、読んでみることにしました。

 

『氷点』は全4巻。『氷点』上下巻、『続・氷点』上下巻…

4冊!

長い!

長いです。

 

だけど…『続・氷点』!

私は必読だと思います。

『氷点』でも一応物語として完結はしていますが、あのストーリーの陽子は、あんまりだと思いませんか?

陽子の今後が気になる方、ちゃんと人生の良い舵取りができるのかどうかを、続・氷点でぜひ見守ってみてください。

私は感動してしまいました。

ほんとに読んでよかったです。氷点という作品の印象も、あれで随分と変わりました。

『氷点』感想文

氷点というのは、とある家族の「罪と赦し」を扱う、重ためのヒューマンドラマです。

三浦綾子さんはクリスチャンとして知られ、三浦さんらしいテーマかと思います。

 

ただ、年上の女性が若い女の子への妬みと恨みつらみで嫌がらせをしたり、夫が妻への嫉妬による復讐心でひどいことをしたりと、人間のどろりとしたものも、特に前半では多く描かれます。

激しいぶつかり合いや罵りもあることから昼ドラテイストのある物語だとも思います。

もしくは私は大胆にも、アンジャッシュ的なすれ違いコント要素のある物話だとも思います。

もっと夫婦がお互いのことを誤解せずに綿密にコミュニケーションをとっていれば、子供たちはかわいそうな思いをしなくてもよかったんじゃないの!?と、前半は特にツッコまずにはいられなかったから。

アンジャッシュじゃあるまいしと思ってしまいました。

 

昼ドラ・アンジャッシュコントの悪い部分を一身に背負ってしまった娘・陽子。

彼女はそんな大人たちのドロドロに「清らかな心」ひとつで立ち向かい、真っ直ぐに生きようとします。

だけど自分の生い立ちを知り、自身の内側にある『氷点』に気づき、人生が180度、ひっくり返ってしまいます。

 

『氷点』という言葉は、物語のかなり最後にやっと現れます。

三浦綾子さんは「塩狩峠」といい、タイトル回収がめちゃくちゃうまい。ほんとに。

読んでてゾクッとしました。

 

さらに三浦さんは、人々が苦しみの中でその感情にどう向き合い、相手とどう接していくか、どういう人生を送っていくかを考えていくことを緻密に描きます。

そしてダイナミックなストーリー展開がめちゃくちゃうまくて、私はツッコミながらもどんどん惹き込まれて読んでしまいました。

さっきは昼ドラなんて書いてしまったけど、やはり文学としてすごい作家の方…

 

『続・氷点』感想文

いちばんの読みどころは、陽子のその後の成長です。

陽子は、自身の生い立ちに畏怖があり、罪悪感を持っているので、ひとつひとつ丁寧に出生の秘密やその時感じた自身の感情を追って、問題を解決しなければいけません。

 

とはいえ陽子はそもそも悪いことを何もしていないので、決して自分を責めたりなにか罪を背負って生きる必要がなく、本来の気質である「堂々と明るく優秀な清くて美しいひと」であるべきだと思います。

そんな陽子のまま、愛し愛されて、幸せになるべきひとです。

そうであってほしいと、読者は見守りながら読み進めます。

 

そういった読者の心配、モヤモヤとした気持ち。

 

これが、続編では晴れやかな形で解決します。

悲劇がありながらも、ドラマチックで感動的なエンディング。

陽子が見つめているものはもう、『氷点』ではありません。

『氷点』と対するような、とても象徴的なモチーフが出てきます。

 

三浦綾子さんは物語をドラマチックに、緩急をつけながら進めるのがものすごくうまいので、すごくドキドキする展開で話が進みますし、とんでもない角度から「伏線回収人間」が現れ、一気に物語が一つにまとまっていくラストは、お話自体にも、三浦さんの技術にも感動してしまいました。

 

登場人物たちも、それぞれのあるべき場所に落ち着くラストかな。

中には悲運の人物もいますが、そのような中でも希望のある終わり方だったかと思います。

 

 

茶店『ちろる』について

氷点の舞台は旭川なので、見本林をはじめ、たくさんの知っているスポットが出てきます(ここ知ってる!と、読んでてすごく楽しい)

「ちろる」もその一つ。

どんなふうに出てきたかというと…

夏枝(陽子の継母・意地悪な役)と村井(夏枝に色目を使う男)。

ふたりが密かに会ってお話をするシーンで出てきました。

 

なんだよ君たちかよ!と私はまたつっこんでしまいました。

陽子と北原(初々しい2人)のデートじゃないのかよ!みたいな。

 

とツッコミつつも、夏枝と村井がちろるで座ったのはどの辺りかなあと想像するのは楽しかったです。

 

座ったのは…右側の列の真ん中らへん?

私が妄想するのはこの席です。

とはいえ、答えは三浦さん以外、誰も知らない。

 

ちろるは旭川の最古の喫茶店でありながら、オーナーさんが代わった今はカフェっぽい姿も見せています。

そして街の中心部にある「買物公園」という歩行者天国のエリアで営業を続けています。

氷点を読んだ方は、ぜひちろるにも。

映画の氷点を見た友人は、ここに行って氷点ごっこをやるんだ!と話してました。笑

 

そういえば中心部からは外れた場所に『氷点』という喫茶店もあるみたい。

こちらは私、行ったことがありません。

玉置浩二さんの歌にもありますよね。こちらも未聴のまま…(小説に重なる世界観なのかな?)

 

 

「氷点」という言葉の意味

ネットで見ましたら

1気圧のもとで空気と氷とで飽和している水の平衡温度のこと。すなわち水の凝固点であり、摂氏目盛りで0.000℃である。

とありました。

ポカポカでありたい陽子の心が、冷えてゼロになってしまう。

「氷点」。

寒い北国の、寒い時期に起きてしまう悲しい出来事を象徴するかのような、ピッタリで、なおかつ美しい言葉だなと思います。

 

他の北海道が舞台の本もそうでしたが、冬がほんとうに寒そう。

凍てつく、死と隣り合わせの、だけどきれいでもある。

そんな描写で書かれている氷点のあのシーン。

北国の寒さと雪が、お話を悲しくもきれいなものに演出しているのだなーと思いました。

 

・・・・・てんとてん ten to ten・・・・・

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